これまでの研究から内皮細胞の血管形成には特定の細胞外基質(ECM)とその受容体との相互作用(ECMへの接着)が必要であると説明されてきた。しかしながら申請者は本研究において細胞外からの物理的刺激が血管内皮細胞の血管構造(管腔構造)形成を誘導することを見い出した。 申請者は血管内皮細胞がアガロースゲルには接着しないことを確認したのち、このアガロースゲルが培養内皮細胞に血管形成を誘導するか否かを調べた。すなわちI型コラーゲンゲルを培養器中に形成させこのゲル上に内皮細胞をまく。そして細胞がゲルに接着したのち、さらにその上にアガロースゲル(1%)を乗層して細胞の形態変化について解析した。この培養条件下においては内皮細胞の増殖は著しく阻害され約5日後には血管様ネットワークの形成が観察された。これらの細胞の切片を作製して電子顕微鏡で観察したところ細胞内に管腔構造が認められた。培養平滑筋細胞、線維芽細胞、グリア細胞において同様の実験を行ったが、内皮細胞で認められたような増殖抑制とこれに続く形態の変化は全く観察されなかった。このことはアガロース/コラーゲンIのサンドイッチ培養は内皮細胞特異的に形態を変化させることを示していた。さらに内皮細胞の血管形成は乗層するアガロースゲル濃度が低い(柔らかい)と観察されないこと。また、高濃度のアガロースを乗層して血管様構造を形成させてもアガロースを取り除くと血管様構造が崩れて内皮細胞が再び増殖を開始することが明らかにされた。これらの結果は内皮細胞の頂上面における外界からの物理刺激が増殖調節および管腔形成を調節し得ることを示していた。
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