申請者らはこれまでXIII因子のフィブリン安定化作用以外の役割について模索することを続けてきている。その過程でXIII因子がコラーゲン結合活性を持っていることや、血小板の表面に存在して血小板-コラーゲンの相互作用を助けていること等を報告しており、それ以外にもXIII因子のトランスグルタミナーゼとしての基質特異性に関する蛋白質化学的研究も行ってきている。またこれらとは別に、フォンビルブランド因子のプロポリペプチドという蛋白質がある種のガン細胞に特異的な細胞接着活性を持つことを発見するなど、細胞-マトリックス間の相互作用に関する細胞生物学的実験を重ねてきている。本研究の目的は申請者らが細最近発見したXIII因子の細胞接着活性について、そのメカニズムの解明と創傷治癒過程における本因子の重要性について明らかにすることであった。 本年度の研究によって(1)XIII因子の細胞接着活性はトランスグルタミナーゼ活性に完全に依存するものであり、(2)XIII因子はインテグリン型のレセプターを介して細胞を接着させていること、(3)レセプターであるインテグリンはRGD配列依存型のものであるにもかかわらずXIII因子の細胞接着活性はRGD配列を全く介さないものであること、(4)XIII因子のトランスグルタミナーゼ活性によって修飾される細胞上の分子はインテグリン自身ではなく、他の膜タンパク質であること、(5)XIII因子のトランスグルタミナーゼ活性によって細胞上のインテグリンがXIII因子自身への接着活性を獲得する、正の制御機構が存在する事などが明らかとなった。 XIII因子欠損症はそれほど頻度の高い遺伝疾患ではなく、またXIII因子の欠損は止血機序にはさほど重篤な影響を与えるとも考えられないにも関わらず、XIII因子の低下は臨床的に重要視されている。それはXIII因子が創傷治癒過程に深く関与していると思われるからである。そこで、XIII因子製剤はこれまでにも術後の縫合不全の改善などに用いられてきたが、本研究の成果如何によっては細胞外マトリックスと細胞の相互作用の不全に起因する種々の疾患においてもXIII因子の細胞への作用メカニズムに根ざした新しい治療・診断法等が開発される可能性がある。
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