芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)におけるPLP結合リジンを同定するためにNaBH_4で還元固定を行った酵素のペプチドマッピングを行うことにより、Lys303が補酵素ピリドキサールリン酸(PLP)とシッフ塩基を形成しているアミノ酸残基であることを証明した。 多くのPLP酵素ではPLPとアルドイミンを形成しているリジン残基は基質のアミノ酸のα-プロトンを活性化する塩基としての役割が考えられているが、脱炭酸酵素においてはα-プロトンの活性化を経ずに触媒反応がおこるためにPLP結合リジンの役割は不明であった。そこで、この点を明らかにするためにLys303をAlaに置換した変異体酵素K303Aの詳細な解析を行った。 K303Aと基質ドーパの反応を行い分光学的、分析化学的に解析したところ定量的にPLPとドーパミンとのPictet-Spenguler付加物を生成することがわかった。また基質アナログ ドーパメチルエステル、およびドーパミンとK303Aとの反応を調べドーパとの反応と速度論的に比較することにより、K303AにおいてもドーパとPLPのシッフ塩基は容易に脱炭酸を受けること、またその結果生じたドーパミンとPLPのシッフ塩基は容易に解離しないことがわかった。 以上のことより、AADCにおいてPLP結合リジンは脱炭酸反応そのものには関与せず、生成物の追い出しに重要な役割を果していることを明らかにした。
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