われわれは、ヒト授乳期乳腺退縮期に、核のPeriodic acid-Schiff(PAS)陽性化反応をともなう細胞死が出現することを報告し、"magentosis"と称した。本研究は、"magentosis"が、授乳期乳腺退縮期にのみ出現する局所的で特殊な現象なのか、あるいは生体内の細胞死の一形態として普遍的な現象なのかを明らかにすることを目的とした。 1)急速な細胞数減少、ホルモン環境の変化をともなう状態を中心に、ヒト諸臓器のホルマリン固定パラフィン包埋材料のHE、PAS染色標本を作製し、"magentosis"の有無を検索した。具体的には、副腎梗塞、ステロイド投与による副腎皮質萎縮、Cushing症候群治療後の乳腺、甲状腺乳頭癌、排卵後卵胞、月経時子宮内膜、分娩排出胎盤、腎尿細管壊死、腎皮質壊死、肝細胞壊死、尿膜管遺残などである。Cushing症候群治療後の乳腺および甲状腺乳頭癌において、"magentosis"の出現が明らかになった。 2)これらの細胞核は、mung bean nuclease処理後TUNEL法陽性、in situ nick translation法陽性であり、ヒト授乳期乳腺における"magentosis"と同様の組織化学的特徴を示すことが明らかとなった。 Cushing症候群症例では、glucocorticoidの乳腺に対する細胞増殖、分泌促進効果が、抗副腎皮質剤の投与により急速に消退し細胞死の契機となった可能性が推察された。また、甲状腺乳頭癌における"magentosis"の出現により、腫瘍においても起こりうる現象であることが確認された。本研究により、"magentosis"が、授乳期乳腺退縮期にのみに出現する現象ではないことが明らかとなった。特に内分泌臓器において急速なホルモン動態の変化、あるいは腫瘍化に関連して生じる現象である可能性が推察された。
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