ヒト大腸癌の肝転移形成に関わる細胞生物学的機構の解明のため、12種類のヒト大腸癌培養細胞株を用いて検討した。全ての大腸癌培養細胞株は、SCIDマウスの筋肉に注入した場合にはそれぞれ良好な増殖を示し、マウス個体に対する造腫瘍性は特に違いは認められなかったが、肝臓の被膜下に注入した場合では増殖性に著しい差が認められ、肝臓における低増殖群(4株)と高増殖性(8株)に分類された。同所性に盲腸に移植し肝転移性を検討したところ低増殖群は全ての細胞株で肝転移を認めなかったのに対し(合計0/37)、高増殖性ではほとんどの細胞株で肝転移を認め(合成17/40)、大腸癌細胞の肝転移性は肝臓での増殖と相関性を示した。 肝臓での大腸癌細胞の増殖像を病理組織学的に検討したところ、低増殖群では癌細胞注入部に強い線維芽細胞の増殖を主体とした間質反応がみられ、一部腫瘍細胞の壊死像を認めるといった特有の病理像を示したのに対し、高増殖群では間質反応は認めなかった。そこで低増殖群大腸癌細胞が、肝臓における間質反応によってその増殖性が抑制されているのかどうかを検討するために、大腸癌肝転移切除症例の肝転移巣から線維芽細胞株を樹立し、低増殖群および高増殖群大腸癌株と混合培養を行い、その増殖形態を比較した。肝転移性を示す高増殖群は肝由来線維芽細胞上では、浸潤性に増殖しその増殖性は亢進されるが、肝転移性を示さない低増殖群は線維芽細胞に対し浸潤性を示さず、その増殖性が抑制された。一方、肺由来の線維芽細胞2株に対しては、両群間で増殖性の差異は認められず、ともに増殖性は亢進した。さらに増殖抑制機構を解析するために、肝転移巣由来線維芽細胞の培養上清及び細胞外基質による増殖抑制効果の有無を検討したところ、抑制は認められず、細胞間の直接の相互作用の必要性が示唆された。これに関与する分子につきさらに検討を行っている。
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