p53遺伝子とRB遺伝子が不活化している骨肉腫細胞株Saos-2に、導入遺伝子の発現をテトラサイクリンでon-offする事ができるベクターシステムでp53あるいはRB遺伝子を導入し、両遺伝子の作用機構を比較した。アラマ-ブルー法で蛍光測定装置を用いて経時的に細胞数を計測したところ、どちらの遺伝子の発現誘導も細胞増殖を抑制した。BrdUとpropidium iodide(PI)の二重染色法にるflow cytometryで解析すると、RB遺伝子の発現誘導48時間後には細胞周期のG1/G0期が増加しS期が減少していたが、p53遺伝子ではG1/G0期の変化は明らかではなくS期の減少とG2/M期の増加がわずかに認められた。nocodazoleを用い細胞周期を詳細に解析するとp53の発現でもG1/G0期で細胞周期が停止していた。更に、RB遺伝子発現誘導細胞はfluorescein diacetate(FDA)とPIの二重染色を用いたflow cytometry法でviabilityの低下は認めず、約96時間後より細胞が大型化した。これに対し、p53遺伝子発現誘導細胞ではviabilityの低下が認められ、約48時間後より多くの細胞が小型化し、死滅・浮遊化していた。p53発現誘導細胞ではIn situ PI染色で核の凝集と断片化が、Tunnel法ではDNAのfragmentationが数多く見られ、アポトーシスを起こしていると思われたが、RB発現誘導細胞ではこれらの変化はなかった。また、RBの発現により骨肉腫細胞の分化マーカーのアルカリフォスファターゼ活性は増加し、フィブロネクチンの発現量もウエスタンブロット法で減少しており、分化の誘導が示唆された。以上の結果から、RB遺伝子の不活化により細胞周期のG1/G0期での抑制の低下と脱分化が誘導され、またp53遺伝子の不活化によりそのような細胞のアポトーシスが妨げられ、骨芽細胞のがん化が促されたと推定された。肺小細胞がん細胞株でもp53の導入で同様の結果を得た。
|