胎生マクロファージは骨髄に由来する単球由来とは異なった分化経路を経て分化成熟するが、本研究ではその分子機構を明らかにするため、主にマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)の役割を検討した。 胎生初期から卵黄嚢上皮からM-CSFが産生された。胎生8日以後、卵黄嚢には赤芽球、巨核球と同時にM-CSF受容体を有する胎行マクロファージが発現した。肝原基の形成に伴い、肝造血が開始し、マクロファージ前駆細胞、およびマクロファージが産生され、胎仔各組織にマクロファージが分布した。肝内のマクロファージはin situ hybridizationによるM-CSF受容体mRNAの発現は明瞭であったが、蛋白の発現は少なく、免疫染色ではほとんど染まらなかった。むしろ肝以外の組織でのM-CSF受容体蛋白発現が強く、これはそれぞれの組織におけるM-CSF産生と関連するものと考えられた。胎生期の各組織でのM-CSF産生は種々の程度に認められ、GM-CSFやIL-3などはほとんど検出できず、胎生期のマクロファージの分化、増殖にM-CSFが重要と考えられた。一方、妊娠子宮の内膜上皮からは胎児に比較して大量のM-CSFが産生され、内各上皮に近接してM-CSF受容体を発現したマクロファージが集合していた。さらに胎絨繊毛にもM-CSF受容体が多量に発現していた。これらのことから、M-CSFは妊娠の成立と維持に重要であるばかりでなく、胎児のマクロファージの分化にも関わる可能性が示唆された。 以上、本研究によってM-CSFが胎仔および妊娠子宮に重要な分子であることが明らかになったが、今後M-CSFの3種のisoformの検討が胎生マクロファージの分化と多様性の解析に重要と思われる。
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