我々は以前に、神経ペプチド:α-Melanocyte Stimulating Hormone(α-MSH)がB16-BL6細胞の基底膜浸潤を抑制すること、その作用機序として主に細胞の運動性を阻害することを見い出した。本研究では、α-MSHによる細胞運動阻害機序の解析およびこの癌細胞のマウスにおける組織浸潤と肺転移に及ぼすα-MSHの生理的役割について検討した。1.α-MSHのよる細胞運動阻害機序の解析…α-MSHは、B16-BL6細胞からの自己分泌型細胞運動促進因子(AMF)の産生を2倍以上促進したが、細胞膜上のAMF receptorの発現量には影響を与えなかった。一方、B16-BL6細胞の培養上清中に細胞運動阻害活性が認められ、この活性は細胞のα-MSH処理で約2倍に増強された。以上の結果より、α-MSHによる細胞運動阻害機序としては、用いた癌細胞由来のAMFの産生阻害あるいはAMF receptorの発現抑制というよりはむしろ、自己分泌型細胞運動阻害因子の分泌の促進である可能性が示唆された。2.α-MSHの細胞運動阻害における細胞内情報伝達機構の解析…B16-BL6細胞において、アデニル酸シクラーゼの活性化剤およびその阻害剤を用いた実験より、α-MSHによる細胞運動の阻害に細胞内cAMPの上昇が関与していることを示された。3.B16-BL6細胞のマウスにおける組織浸潤と肺転移に及ぼすα-MSHの生理的役割…B16-BL6細胞の実験的肺転移はα-MSHとの同時投与により50%以上抑制された。マウスの自然肺転移実験において、α-MSHレセプターアンタゴニストの腫瘍内投与により、原発腫瘍の組織浸潤が促進されるとともに、この癌細胞の肺転移が有意に増加した。一方、過剰量のα-MSH投与により、原発腫瘍の組織浸潤および肺転移が著明に抑制された。以上の結果より、担癌状態での生体防御におけるα-MSHの重要性が示唆された。現在、上述のすべての結果を3部に分けて投稿準備中である。
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