本研究の目的である北海道における多包虫分離株の多型解析を行うために、旭川食肉検査事務所より供与された試料は旭川市を中心に道北・道東の多くの地域から収集されたものであった。多包虫のDNAを得るために多包虫感染陽性と検査されたブタの肝臓から病巣を摘出し、スナネズミ腹腔内へ移植して幼虫の増殖を試みた。文献的には移植後半年で増殖した幼虫組織が得られているが、今回は予想以上に幼虫の発育が不良であり移植した病巣のうち幼虫の増殖が見られたものは少数例であったため、分析に必要十分な量の幼虫組織を得ることはできなかった。よって多型を示すことが予想されるDNA領域を増幅するPCR法や制限酵素による多型解析を実施するまでには至っていない。そのため、幼虫組織の増殖に時間を要する点や、本研究を実施中に検討されたDNA解析法の改善点も含めて、現在以下の方法で解析を急いでいる。 1.本研究中は肥育ブタ生産地域別に多包虫を集めることができる環境にあったが、さらに北海道立衛生研究所の協力により、北海道各地で多包条虫検査のために持ち込まれるキタキツネから多包条虫成虫の供与を受けることが可能になった。多数の多包条虫成虫が採取できるため、解析に十分なDNAを得ることができる。現在、すでに10数カ所の地域の多包条虫の供与を受けており、今後も他の地域のサンプルを採取できる予定である。 2.当初予定していたPCR-RFLP法に加え、リボソーム遺伝子をコードする塩基配列中に介在する変異の蓄積されやすいITS領域のDNA配列のシークエンスを行い、成虫の分離地域別に比較する。これらの解析手段に加え、ブタおよびキツネ由来の多数の検体を用いることによって、北海道における多包条虫の遺伝的多様性を十分評価できると思われる。
|