我々は、以前に行っていたTrypanosoma brucei gambiense血流型原虫の糖代謝に関連した研究の過程から、本原虫が外部からの酸化ストレスに対して非常にダメ-ジを受けやすいというデータを得ている。他の研究者の報告を見ても、本原虫からは、唯一、トリパノソーマ科原虫に特異的と考えられているトリパノチオンレダクターゼが見出されているのみで、一般的な活性酸素消去系酵素の存在は報告されていない。しかしながら、本原虫自身の作り出す内因性の多くの種類の活性酸素種をトリパノチオンレダクターゼによって生成される還元型トリパノチオンのみで全て消去しているとは考えにくく、細胞内でこれ以外の消去系が機能しているはずである。そこで、本原虫の活性酸素消去系の検索を主目的に本年度の研究を行った。本原虫は、14〜33×2〜4μmの紡錐形の形態をしているため、ポッター型ホモジナイザーを用いたマイルドな方法での細胞破壊が困難であった。そこで、超音波破砕機および凍結融解法を用いて粗酵素溶液の抽出を行った。ここで得られた粗酵素溶液を用いて、次に、他の生物の活性酸素消去系において重要な役割を果たしているカタラーゼなどの酵素活性を常法にしたがって測定した。その結果、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼおよびグルタチオンレダクターゼについては、マウスに感染させて得た虫体と培養によって得た虫体のいずれにおいても酵素活性は検出されなかった。しかし、本原虫に存在するかもしれない酵素が、哺乳類のカタラーゼに認められる様な非常に失活しやすい不安定な性質をもっていたため、測定時には既に失活し酵素活性が検出されなかった可能性が考えられる。そこで、現在、酵素抽出法や酵素活性測定法も含めて再検討を行っており、その存在が予想されているものの未だ見出されていないトリパノチオンペルオキシダーゼを含めた活性酸素消去系酵素種の検索を今後も引き続き行う予定である。
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