壊死性筋膜炎やショック症状などを起こし、数十時間以内に患者を死に至らしめる劇症型A群レンサ球菌感染症の発症モデルは、現在、既存のA群レンサ球菌感染症から劇症型への移行の原因が、宿主の免疫状態によると提唱している。しかしながら、宿主の免疫状態はもちろんだがそれに加えて、筋膜組織への侵襲に関わるような未知の病原因子の獲得や、既存の病原因子の発現量に変化を起こすような要因の獲得などにより菌が劇症型感染症を起こすようになったのではないかと推測される根拠がいくつか得られている。そこで、この実験系では、劇症型感染症の発病に関与する未知の病原因子をA群レンサ球菌が獲得した可能性について検討するために、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)-PCR法を用いて、既存のA群レンサ球菌と劇症型感染症を起こしたA群レンサ球菌の染色体DNA上での差異を検出し、劇症型感染症を起こした菌株だけが新たに獲得したと考えられるDNA断片の単離・同定を目指した。その結果、我々が保有する劇症型感染症を起こしたA群レンサ球菌には、既存のA群レンサ球菌に比べてM1型において1.5kbと3.5kbのDNA断片長多型が、また、M3型においては0.4kbのDNA断片長多型の存在が見い出された。これらの結果から劇症型感染症を起こしたA群レンサ球菌M1型及びM3型の菌株においては、これらの菌株は少なくともM1型及びM3型それぞれのセロタイプごとに何らかの共通の遺伝形質を獲得している可能性が考えられた。今後は、得られたDNA断片及びその近傍領域について染色体ウオ-キングやクローニング、シークエンスなどの方法を用いた解析を行うことにより、劇症型A群レンサ球菌感染症の発病メカニズムの解明を進める。
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