肺炎マイコプラズマ(M.pneumoniae)の病原性に関与する細胞吸着性タンパク質P1には2種類の遺伝子型が見られ、疫学的な調査を行うと遺伝子型の異なる株が交互に流行を繰り返す現象が観察される。M.pneumoniaeのゲノムにはP1遺伝子と相同性のある繰り返し配列が多数存在しており、この繰り返し配列が遺伝子組換えをおこすことによって2つのP1遺伝子型がつくり出されると考えられている。この機構を詳しく考察するために本研究を行った。 本年ドイツのグループによってM.pneumoniae M129株全ゲノム配列が報告された。この結果から、M.pneumoniaeゲノムの繰り返し配列のほとんどは2種のP1遺伝子の配列がキメラ様になった構造をしていることが明らかになった。これはM.pneumoniaeゲノムが過去に何度も繰り返し配列間で複雑に相同組み換えをおこしたものと考えられ、その過程で2種のP1遺伝子がつくり出されたと考えられた。実際にこのような遺伝子相同組換えが現在でも頻繁に起こっているのかを調べた。M.pneumoniaeを継代培養しP1遺伝子座をRFLPによって型別したところ、20継代培養後もP1遺伝子の型に変化は見いだせなかった。また特異的なプライマーを用いたPCR法で高感度な検討も行ったが遺伝子型の変化をおこす相同組換え現象は検出できなかった。これらのことから2種のP1遺伝子型は、過去に繰り返し配列の組換えによって生じたと考えられるが、現時点では容易に検出できる頻度では遺伝子型の変換は起こっていないものと推測された。
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