本研究の目的はインフルエンザウイルスの転写、翻訳系を酵母細胞内で再現することであった。本年度はGST融合蛋白質としてインフルエンザウイルスの転写関連蛋白質を酵母内で発現させ、その動態を解析した。この結果をふまえ、同ウイルスの転写・翻訳系を酵母細胞内で再現することに成功した。具体的な実験結果は以下の通りである。 1)強力な酵母由来のプロモーターを利用して、3つのインフルエンザウイルス複製・転写関連蛋白質を酵母内で同時に発現させた。これらの蛋白質はGST(グルタチオン-S-トランス フェラーゼ)との融合蛋白質として発現させており、グルタチオンカラムで発現蛋白質を精製できた。発現した蛋白量は細胞あたり100分子程度とわずかであったが、本来の宿主細胞の場合と同様、3つの蛋白質がコンプレックスを形成することを示した。 2)この3つの蛋白質に加え、ワクシニアウイルスVP39蛋白、インフルエンザウイルス由来RNA結合蛋白質NP、および鋳型RNAを同時に酵母細胞に導入した。鋳型RNAはルシフェラーゼ遺伝子の相補遺伝子であり、両端にインフルエンザウイルス複製転写プロモーターを持つ。このとき、ルシフェラーゼの活性の有意な上昇が検出された。これは鋳型RNAからの転写、翻訳が酵母細胞内で起こったことを示している。 本実験の結果からインフルエンザウイルスの(少なくとも)転写反応は酵母内で再現できる可能性を示した。今後この効率を上げることができれば、酵母の強力な遺伝学的解析技術により、宿主因子の解析や転写複製メカニズムの解析にパワフルな研究手段となることが期待される。
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