ALYマウスは、全身のリンパ節欠損を主徴とする免疫不全ミュータントであり、その原因遺伝子吋aly(alymphoplasia)は、第11染色体上のセントロメアから約63cMの位置に存在する。申請者らは、既に、遺伝学的にaly遺伝子の存在が示されている約300kbpの全ゲノム領域を単離することに成功している。しかしながら、あらかじめ、このゲノムコンティグ中にaly遺伝子が含まれていることを、遺伝学的方法以外の手法で確認しておくことが好ましい。そこで、本研究においては、ALYマウス由来の受精卵にaly遺伝子座近傍のゲノムDNAを導入し、alymphoplasia症の回復性の検討を拭みた。まずトランスジェネシスによる回復性を検討した過去の文献を調査したところ、形態形成に関わるような発現制御が複雑である遺伝子の回復には、コスミドクローンでは発現調節領域のすべてを包含するには必ずしも充分でないことが判明した。続いて、ALYマウス由来の受精卵が凍結保存に耐え得るか否かを検討したところ、凍結融解後も80%以上の生存性を示し、かつ細胞膜がピペット注入に十分な強度を保持していることが判明した。そこで、aly遺伝子の存在が示されている約300kbpの全ゲノム領域を重複してカバーしているBACクローンを3クローン選択し、そのDNAをrare cutterであるNotIで消化後、ALYマウス由来の凍結受精卵にマイクロインジェクション法にて注入した。現在までに、48匹の産仔が得られている。しかしながら、その中に注入DNAがALYマウスゲノムに導入された個体は存在しなかった。現在もなお、BAC DNAの導入個体を得るべく、さらに条件設定を行いながら実験を継続中である。BACクローンを安定して受精卵に導入する系を確立できれば、今後、迅速な疾患原因遺伝子の同定も可能となることが期待される。
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