細胞・固体レベルの両方でカドミウムによりアポトーシスが誘導されることを見い出したことから、本研究ではカドミウムと同様に腎障害を引き起こすことで知られる水銀について、アポトーシスの誘導と腎毒性との関係を毒性学の基本理念である、量-反応関係という立場から明らかにすることを試みた。本研究を遂行するにあたり、2つの新しい実験技術を導入した。すなわち、1)アポトーシス誘導の量的検討を行うため、その生化学的指標である断片化DNAを動物組織中から精度良く定量する方法を確立した。2)水銀の蓄積とアポトーシス誘導部位との関係を検索するため、シンクロトロン放射光蛍光X線イメージング(SR-XRF、組織中水銀の2次元分布)とTUNEL染色法(アポト-ティックな細胞の検出)との組み合わせ分析法を開発した。塩化第二水銀を投与したラットについて、これらの手法を用いて検討した結果、1)腎臓におけるアポトーシス誘導は、近位尿細管障害の指標である、アルカリフォスファターゼの尿中放出に先行すること;2)アポトーシス誘導部位は水銀の標的部位である近位尿細管であり、水銀の蓄積と一致したこと;3)水銀投与量とアポトーシス誘導との間に典型的なシグモイド関係があること、などが判明し、アポトーシスが無機水銀による腎毒性の指標として有効であることが示された。
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