虚血性心疾患(IHD)の発生前において、健康管理としての地域、職域等で実施されている検診の受診状況を把握し、その成績をもとに症例対照研究に準じて危険因子の検討を行った。 対象は、大分市のO病院循環器科において、1993年10月〜96年7月に、初回冠動脈造影検査等でIHDと診断された217例とした。各対象者に対して、IHD発生前の検診受診状況について郵送によるアンケート調査を行った。この内、193例から検診受診の有無についての回答を得た(回収率89%)。IHD発生前5年以内に検診を受診していたものは109例(56%)であった。この受診者の割合は、男性が59%、女性が51%、と男性のほうがやや高く、また、65歳以上の高齢者では男女とも50%程であった。次に、検診受診ありと回答したものの内で検診成績が回収できた68例について、症例対照研究に準じてIHDの危険因子の検討をした。この68例の内の7割はIHD発生前1年以内の成績であった。対照は各症例につき性・年齢(±2歳)をマッチさせた1994〜96年の大分市近郊の基本健康診査受診者の中から無作為抽出した。BMI、喫煙、飲酒、高血圧、糖尿病、総コレステロール(TCH)を説明変数とする多重ロジスティック回帰分析の結果、TCHと喫煙が危険因子として有意な関連を示した。TCHについては240mg/dlを超えるところからのオッズ比の上昇が認められ、この群では220mg/dl未満の群に比べ2.7倍(95%信頼区間1.0-6.9)のリスクの推定値が得られた。 本研究ではIHDの危険因子として喫煙あるいはTCHといった因子の重要性が示唆された。TCHはIHDの危険因子としてこれまでに欧米を中心とする多くの研究で証明されてきた。日本人のTCHの平均値の上昇が指摘されており、IHDの危険因子としての位置づけが大きくなったものと考えられる。
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