細胞内情報伝達因子のひとつであるMitogen-activated protein kinase(MAPK)は神経成長因子などの種々の増殖刺激によってリン酸化を受け、核に移行した後、c-fosやc-junといった転写因子を活性化する最も重要な酵素である。そこで、私たちは突然死の最多の死因である虚血性心疾患モデルを用いて実験を行い、MAPKの活性化とその機構について検討した。 細胞分画と免疫染色の結果からMAPKは心筋虚血時に細胞質から核に移行していた。そこで、抗リン酸化MAPK抗体でウエスタンブロットを行ったところ、虚血時に核に移行したMAPKはチロシンリン酸化を受けてはいなかった。虚血後再灌流を行うとMAPKはチロシンリン酸化を受け、キナーゼ活性も有意に増加した。MAPKの上流キナーゼであるMEK1は虚血再灌流時に細胞質にのみ存在しており核には存在していなかったが、MEK2は細胞質および核内で検出された。核内のMEK2活性は再灌流時に上昇しており、核内にMAPK活性化経路が存在している可能性が示唆された。再灌流時のMAPK活性化はPKC特異的阻害剤であるcalphostin CおよびCa2+流入(部分的)によって抑制され、MAPKがPKCに依存した経路で活性化されている可能性が示唆された。そこで、虚血時のPKCisoformの細胞内局在と活性化因子について検討した。PKCζが虚血中に核に移行していることが示された。PI3キナーゼ阻害剤であるwortmanninはPKCζの核移行を用量依存的に抑制し、虚血時に生成したPIP3がPKCζを活性化している可能性が示唆された。これまでにPKCζはMEKおよびMAPKを活性化することが報告されており、心筋虚血再灌流時にはこれまで未知であった核内の活性化経路によってMAPKが活性化されている可能性が示唆された。
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