抗精神病薬は、自殺目的による多量の服用や治療中の過剰投与などでしばしば中毒症状を起こしたり、まれに死亡することがあり、法医中毒学上、分析が必要な薬物である。今回、抗精神病薬のなかで、ベンズアミド系に属するスルトプリドについて、液体クロマトグラフィー(LC)および液体クロマトグラフィー・質量分析装置(LCMS)を用いて選択的に分析する方法を開発した。またその方法を用いて、実際の入院患者の血液中濃度を長期にわたり追跡し、各患者の定常状態での薬物濃度を求めた。 まず、体試料から効率よく抽出する方法を検討した。その結果、通常の3段階液-液抽出に加えて、塩析効果を用いることにより、抽出効率が数倍上昇した。 次に分析装置だが、法医中毒学上では薬毒物の定性が不可欠であるので、定性にLCMSを用いて行うことを検討し、良好な結果を得た。定量はLCMSと同じ分離条件のLCで行い、検出下限界は5ng/gであった。 この抽出法ならびに分析方法を用いて、実際に精神病患者の血液中スルトプリド濃度を6か月間にわたり追跡したところ、各患者の定常状態での血液中濃度を知ることが出来た。 本法は血液中スルトプリドを質量分析装置で定性した初めての報告であり、定量も高感度で行うことが出来た。また、実務にも応用可能であることが判った。
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