研究代表者は、タングステンの化合物と目される未知の因子が(以下因子Tとする)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)をβ-ラクタム剤に感受性化させることを発見した。この因子Tを精製したところ、ウンデカリンタングステン酸(PTA-11)であることが判明した。この化合物は、市販のリンタングステン酸(ドデカリンタングステン酸)の12個あるタングステン酸のユニットが1つはずれた構造を持ち、市販の(ドデカ)リンタングステン酸を注意深く中和して再結晶を繰り返すことでも調整できる。また、この化合物は「ヘテロポリ酸」と呼ばれる1群の化合物の1つであり、類似の化合物は(例えば、ケイタングヌテン酸から生ずるウンデカケイタングステン酸など)、みなMRSAをβ-ラクタム剤に感受性化させることが判明した。さらに、類似の化合物を合成してスクリーニングしたところ、出発材料の溶液にホウ酸やチタンなどの他の元素を加えることにより、PTA-11よりさらに10倍から100倍効果の強い化合物をいくつか得ることができた(その中で、最も効果の高いものをPM-19と呼んでいる)。残念ながら、PTA-11やPM-19は毒性が強く、医薬品としての用途は断念せざるを得なかったが、細胞機能や耐性機序研究用の「ツール」としての応用が期待される。なお、こうした抗菌物質の薬効を合理的に比較できる「スコア」を研究中に考案したので付記する。
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