【目的】ポジトロンCTを用い、遺伝子診断の確定したミトコンドリア脳筋症症例において、脳における血流、代謝、pHを測定し、その中枢神経障害機序について検討する。特に、Mitochondria Encephalomyopathy with Lactic Acidosis and Stroke like episodc(MELAS)とMyoclonic Epilepsy with Ragged Red Fibers(MERRF)の違いを中心に検討した。 【対象】遺伝子診断の確定したMELAS2例、MERRF2例を正常人5例と比較した。 【方法】ポジトロンCTを用いて、局所脳血流、酸素代謝、血液量、局所脳糖代謝の測定、^<11>C標識炭酸ガスの吸入による脳pHの測定、^<15>O標識水静注法による安静時および負荷時(5%炭酸ガス吸入時、過呼吸時)血流測定を行った。計測はPETカメラ(HEADTOME-IV)で行い、データは当施設のコンピュータシステム(CONVEX-INDY-Mac)で解析した。脳の各部位に関心領域を設定し、局所の循環代謝諸量について、ミトコンドリア脳筋症群を正常群と比較検討した。 【結果および考察】脳血流は両疾患ともほぼ保たれていたが、酸素代謝率、酸素摂取率は著明に低下しており、両者ともミトコンドリアの機能異常により酸素の利用障害があることを反映していると考えられた。一方ブドウ糖代謝はMELASでは正常ないしやや亢進しているのに対してMERRFでは低下しており、両疾患で大きな違いを認めた。脳pHはMELASの症例では低下しており、脳全体としてアシドーシスになっていることが示された。両者のエネルギー代謝異常の違いは臨床症状の違いに対応していると考えられた。特にMELASにおいて酸素の利用障害と解糖系の亢進によるアシドーシスが認められたことはstroke episodeが血管障害ではなくエネルギー代謝の崩壊による組織障害である可能性を示唆している。
|