1.in vitroで心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)がエンドセリン(ET)-1分泌を抑制することは示されているが、心不全下で内因性ANPが実際にET-1の分泌を調節しているか否かは明らかではない。ANP受容体拮抗薬、HS-142-1(HS)を高頻度右室ペーシングによる低心拍出量性重症心不全イヌに投与し、ANPとET-1の関係を調べた。HSはANPのセカンドメッセンジャーである血漿cGMP濃度を有意に低下させた(p<0.001)。それに伴い血漿ET-1濃度は有意上昇した(p<0.05)。その時ET-1とcGMP両者の濃度変化に有意な負の相関(r=-0.64、p<0.01)を認めた。しかし血行動態に有意な変化は無く、またET-1の分泌を刺激するAngiotensin-IIやArginine Vasopressin濃度にも変化を認めなかった。以上より内因性ANPは慢性重症心不全下においてcGMP系を介してET-1分泌調節に関与していることを明らかにした。 心不全下で増加したETが受容体を介していかに心不全の病態形成に関与しているかは明らかでない。ET-A受容体拮抗薬FR139317、ET-A/ET-B両受容体拮抗薬TAK044を心不全イヌに投与し、血行動態、神経体液性因子及び腎機能の変化を観察し、ET受容体拮抗薬の治療薬としての可能性を検討した。また両受容体を介して尿量-Na調節に関与している。さらにETはET-A受容体を介してANP分泌を、ET-B受容体を介してアルドステロン分泌を調節し血管トーヌス、体液貯留に二次的に関与していることが示唆された。このことからET-A受容体拮抗薬が心不全の急性治療薬として優れていると考えられるが、ET-A/ET-B両受容体拮抗薬の慢性投与は血行動態の改善に加えて、アルドステロン分泌を抑制し体液貯留に拮抗する可能性がある。
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