先天性の中枢神経の髄鞘形成不全症は精神運動発達遅滞や脳性麻痺の主な要因であるが、乳児期早期より精神運動発達遅滞、眼振をきたすPelizaeus-Merzbacher病(以下、PMD)は最近の画像診断により早期診断が可能となった疾患であり、X染色体連鎖を示す遺伝性疾患である。PMDは乏突起膠細胞の髄鞘形成の不全が原因であると考えられており、proteolipid protein(以下、PLP)遺伝子が深く関係していることが報告されている。PLP遺伝子は中枢神経のみに発現しているために、これまで細胞レベルでの病態研究が困難であり、治療法も確立していない。そこでこれらの遺伝子の異常と中枢神経の髄鞘形成不全との関係を明らかにし、治療法の開発を行っていくために、髄鞘形成不全症のモデル細胞として、異常を示したDNAを導入した中枢神経由来の乏突起膠細胞の培養系を作成し、その病態を解析することにより、遺伝子治療に向けた基礎研究を行うことを目的とした。本年はまず臨床的にPMDと診断された症例の末梢血から抽出したDNAから、PLP遺伝子をPCR法により増幅し、ベクターに組み込み塩基配列自動解析装置によりPLP遺伝子の解析を行い、1家系において異常を認めた。この異常は1塩基対の置換であり、これまでに報告のないものであった。今後はこの遺伝子を導入した中枢神経由来の乏突起膠細胞の培養系を作成し、その病態解析を行い、遺伝子治療に向けた基礎研究を行う予定である。
|