研究目的:Lowe症候群は、眼、脳、腎臓の障害を特徴とする遺伝性疾患である。原因として細胞内シグナル伝達に関与するイノシトールポリリン酸-5-ホスファターゼと類似した塩基配列を有する遺伝子(OCRL-1)の異常が推測されている。本研究は、この遺伝子異常が、Lowe症候群の病態形成に如何に関与するかを明らかにすることを目的とする。具体的には、(1)Lowe症候群において異常が指摘されている、OCRL-1に対するアンチセンス・オリゴヌクレオチドをin vitroの培養系において神経細胞に添加し、神経細胞内でのOCRL-1の発現を実験的に抑制する。これにより神経細胞の外界刺激に対する分化誘導が障害されるか否かを検討する。(2)同様の実験を各種培養細胞系を使用して行い、OCRL-1遺伝子の細胞特異性を明らかにする。 研究結果:in vitroでの神経細胞モデルとして、ヒト神経芽細胞腫株あるいはラット褐色細胞腫株を使用する。これらの細胞において、OCRL-1遺伝子の発現があるか否かをノーザンブロットにて検討した。一部の神経細胞株にて、OCL-1遺伝子のmRNAの発現が認められた。 OCRL-1mRNAの5'側、中間、3'側のそれぞれ18塩基配列に対して相補性を有するanti-sense oligo.を合成。anti-sense(5uM)を培養上清中に添加し、5日間培養した後、いずれのanti-senseがOCRL-1の発現を最も抑制するかを検討することを試みた。しかし、用いた神経細胞間では増殖等に変化は見られなかった。 今後はOCRL-1が細胞内シグナル伝達の中間体として機能しているか否かを検討するため、anti-senseの存在下で神経細胞を培養した後、培養細胞をNGF、FGFあるいはEGFで処置し、細胞内シグナル伝達路が正常に作動しているか否か。また同様の実験をヒト網膜芽細胞、筋芽細胞、腎尿細管培養細胞等を用いて行い、OCRL-1遺伝子の細胞特異性の有無を検討する予定である。
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