研究概要 |
ウサギ動脈管培養平滑筋細胞および他の血管平滑筋(大動脈,肺動脈)細胞を用い,高酸素負荷が平滑筋タイプ(SM1,SM2),非筋タイプ(NMA,NMB)ミオシン重鎖(MHC)遺伝子発現に与える影響およびアポトーシスが引き起こされるか検討した. 高酸素負荷は動脈管および肺動脈平滑筋において全てのMHC遺伝子発現を抑制し,大動脈平滑筋には影響しないことが再確認された.非常に興味深かったのは,動脈管および肺動脈平滑筋細胞ではMHC遺伝子発現の変化は同様であったが,その細胞死が動脈管ではアポトーシスに,肺動脈ではネクローシスによって引き起こされている点であった.動脈管平滑筋では電顕により,核の著明な濃縮化,膜の保存などアポトーシス特有の所見が得られたのに対し,肺動脈平滑筋では明らかなネクローシス像が観察された.大動脈平滑筋でもやはりネクローシス像が観察され,高酸素負荷による細胞死誘導メカニズムは動脈管と他の血管平滑筋では異なることが判明した.核の断片化は各血管平滑筋とも経時的に進行していたが,肺動脈,大動脈平滑筋ではアポトーシス像が見られず,ネクローシス像のみが観察されたことから,核の断片化はアポトーシス特有の所見とされてきたが,必ずしもそうとは言い切れない可能性が示唆され,今後さらに詳しく調べる必要があく.もう一点興味深かったのは,動脈管で観察されたアポトーシスが高酸素負荷後数日経過してから誘導された点である.通常アポトーシスは,ある刺激が加わった後短時間のうちに誘導されるのが普通であるが,本研究では8日間培養した細胞にのみ観察され,3日ないし5日間培養した細胞ではまだ認められなかった.これは動脈管収縮の動態あるいは生理学的な側面を考慮すると,高酸素負荷後直ちにアポトーシスが誘導されないことが生体にとって都合がよいと考えられ,この現象の検討を今後の課題としたい.
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