家族性肥大型心筋症の遺伝子解析を目的に7家系(A〜G)の家族性肥大型心筋症患者25例とその家族12例のβ心筋ミオシン重鎖遺伝子エクソン3〜23および心筋トロポニンT遺伝子エクソン1〜16の領域をRT-PCR法にて増幅し、ミスセンス変異の検討を行った。その結果、3世代に渡る1家系(D家系)5例のうち肥大型心筋症発症4例全員にβ心筋ミオシン重鎖遺伝子エクソン20の部分にアミノ酸置換(Gly741→Try)を確認した。さらにC家系では肥大型心筋症を発症している兄弟2例とその母親のβ心筋ミオシン重鎖遺伝子エクソン3にアミノ酸置換のない変異(Thr63→Try)を認めた。この2種類の変異については本邦にのみ報告されているものであった。またさらに、D家系については子供とその父親の心筋トロポニンT遺伝子エクソン14にアミノ酸置換(Lys256→Arg)を認めた。これまでにβ心筋ミオシン重鎖遺伝子と心筋トロポニンT遺伝子にアミノ酸置換が同じ家系に確認された報告はない。 これらの結果より家族性肥大型心筋症におけるβ心筋ミオシン重鎖遺伝子のミスセンス変異は人種間の差異が存在し、複数の心筋サルコメア構成収縮蛋白(ミオシン重鎖、トロポニンT)の遺伝子異常が家族性肥大型心筋症の一因であることが示唆された。 今後、これら家族性肥大型心筋症では、β心筋ミオシン重鎖遺伝子、トロポニンT遺伝子の解析だけでなく、複数の心筋サルコメア構成収縮蛋白遺伝子やエネルギー代謝を司るミトコンドリア遺伝子などのミスセンス変異を比較しその相関関係を検索することが、発症のメカニズムの解明、早期発見に有用であると考える。 この研究の一部成果はAmerican Heart Association(ポスター発表)、日本人類遺伝学会(口述発表)、日本小児循環器学会(口述)、日本循環器学会学術集会(口述)で報告した。
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