各臓器を構成する細胞は常に増殖と死のバランスを保ちながら、その機能を維持している。例えば、表皮細胞においては角層へと分化する過程で細胞膜の内面にcornified envelopeと呼ばれる強固な裏打ち構造が形成され、terminal differentiationという細胞死と連動したドラスチックな変動がもたらされる。このような細胞死はあらかじめ予定された死であり"programmed cell death"とよばれている。最近個体および細胞系の発生、分化、成熟の過程においてprogrammed cell deathのひとつであるapoptosisが重要な機能的意義をもっていることが明らかになってきている。 本研究の目的は現在まで知られているapoptosis関連蛋白である、Fas蛋白の表皮細胞にapoptosisを誘導する際のシグナル伝達機構におけるprotein kinase Cとの関係を明らかにすることである。 我々が現在保有している、SV40-transformed human keratinocytesを用いて、Fas抗原刺激に際して細胞内のProtein kinase C activity、IP3およびDAGの変化について検討した。抗Fas抗体(1μg/ml)刺激後10分でDAGは最大となり20分後には刺激前の状態にもどった。Protein Kinase C activityについては抗Fas抗体(1μg/ml)刺激後、細胞内Protein Kinase C activityのみ10-15分で最大となり40分後には刺激前にもどった。細胞膜分画のProtein kinase C activityおよびIP3は抗Fas抗体刺激で変化はみられなかった。 また、これら一連の反応がprotein kinase Cのどのprotein kinase Cサブタイプ(α、β、γ、δ、ε、ζ、η)によるかをの各種抗体を用いて免疫沈降法を行いリン酸化反応を検討した。抗Fas抗体(1μg/ml)刺激後10分でprotein kinase C-ζのみが特異的にリン酸化された。 以上の結果から表皮細胞のFas抗原刺激の際に細胞内DAGが上昇し、protein kinase C-ζが特異的に活性化されapoptosisを誘導するものと推定した。
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