細胞外間質の分解に関与する蛋白分解酵素のひとつ、プラスミンを活性化するプラスミノーゲンアクティベータ-(PA)の作用点であるプラスミノーゲンアクティベータ-リセプター(uPAR)の皮膚癌組織における発現を検討した。以前より、uPARは癌の浸潤転移において促進的に働いているという報告が多いが、uPARは癌周囲のマクロファージにも発現するため、その発現の意味は単純ではない。検討の結果、扁平上皮癌における腫瘍細胞上のuPARの発現は、転移例、非転移例を問わず狭い範囲に限られているものが多く、主に腫瘍塊の中央の角化傾向のある部分と、表皮浅層の顆粒層に発現がみられた。また、腫瘍塊辺縁で発現している部分は、細胞浸潤のある狭い範囲に限られていた。特に浸潤したマクロファージにより、腫瘍細胞がばらばらになっているような部分で強い発現があった。発現範囲が非常に狭いこと、必ずしも腫瘍塊の先端ではないこと、細胞浸潤によって腫瘍細胞が破壊されているような部分にもみられることなどから浸潤転移への関与は低いのではないかと考えた。転移した例のなかで、むしろuPARをほとんど発現していないものが、64%を占めていた。扁平上皮癌では、癌細胞のuPARの発現は、生体内の浸潤転移促進に直接働いていないものと思われる。腫瘍細胞に発現の少なかった例では、間質での発現も少ない傾向があった点などから、間質細胞と腫瘍細胞の反応にuPARが何らかの役割をはたしている可能性はある。癌細胞と生体の細胞の反応は、細胞の性格、癌細胞の浸潤の程度、生体の条件などでさまざまな違いが生じ、同一の腫瘍のなかでも、部分的に違う可能性が多いにある。uPARの発現の意味を明らかにするためには、蛋白レベルやメッセンジャーレベルでさらに検討が必要とおもわれる。
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