細胞内の蛋白は、老朽化に伴いラセミ化やアイソマ-化し、本来の機能および構造蛋白の性質を失う。Isoaspartyl Protein Carboxyl Methyltransferase(PIMT)は、蛋白のラセミ化やアイソマ-化により生じたL-イソアスパラギン酸やアスパラギン酸残基のβ-カルボキシル基をメチル化させる酵素である。この反応でメチル化を受けた蛋白は、自然に脱メチル化され元の正常蛋白にもどる。したがって、本酵素は老化蛋白を修復する作用があると推定されている。PIMTは、広く哺乳類に存在し、脳、睾丸と赤血球に酵素活性が高く、ノーザンブロット分析でも本酵素の遺伝子は、脳と睾丸に強く発現している。そこで、digoxigenineラベルのセンスとアンチセンスプローブを用いin situハイブリダイゼーションを行い、PIMT遺伝子発現のラット脳での局在性を分析した。 生後5ケ月のWistar系雄ラットを用いたが、脳と睾丸以外の組織では、反応はほとんど認められなかった。脳では、神経細胞に特異的に反応が認められ、主に海馬のCA1およびCA3領域の錐体細胞層に局在し、大脳皮質では各層に散在していた。しかし、被殻尾状核には反応はほとんど認められなかった。この結果は、ノーザンブロット分析の分布とほぼ一致している。 本研究により、脳の神経細胞での局在が初めて明確になったが、推定されている機能である老朽化蛋白修復作用が脳の各部位で、いかに特異的に機能しているかは、今後の研究課題として興味深い。
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