研究概要 |
細胞周期を制御するタンパクであるサイクリンは、現在13種類存在することが確認されており、種々の腫瘍細胞で過剰発現がみられることより腫瘍化との関連が指摘されている。D-typeサイクリンは、細胞周期のG1/S期の制御を行なうG1サイクリンに属し、相同性の高いサイクリンD1,D2,D3(以下D1,D2,D3)の3種類がある。マントル細胞リンパ腫(MCL)にD1の過剰発現が認められることが報告されているが、上記3種類のサイクリンが造血系細胞においてどのように使い分けされているのか不明であった。 今回、種々の造血器悪性腫瘍及び健常人末梢血細胞(PBL)におけるD-typeサイクリンの発現様式をノーザン解析で検討したところ、次の事実が判明した。(1)D1はMCLとt(11;14)転座を有する骨髄腫、慢性リンパ性白血病で過剰発現している他、急性骨髄性白血病(AML)の一部にも発現を認めた。(2)D2は未分化な段階のT-ALL/リンパ芽球性リンパ腫を除くT細胞性腫瘍の大部分で発現しており、AMLでも発現している症例があった。(3)D3は多くの腫瘍で発現していたが、D1,D2の発現があるリンパ性腫瘍では発現の減弱を認め、多くのB細胞性腫瘍ではD3が主に発現していた。(4)PBLでは、T,B細胞ともD2,D3の発現を認めたが、T細胞分画はD2、B細胞分画はD3の発現が強かった。また、PHA刺激によりD2の発現は増強し、D3の発現は減弱した。以上の事実より、骨髄性白血病では一定の傾向はみられないが、リンパ性腫瘍ではD-typeサイクリンの使い分けに法則性があると考えられる。即ち、D1の発現はt(11;14)転座等の遺伝子変異を反映しているのに対し、D2の発現はT細胞系の系統特異性を反映しており、D3は普遍的に発現がみられるが、D1ないしD2の過剰発現がある場合は発現が減弱すると考えられる。
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