近年、糸球体疾患の進展に、血管作動性物質の果たす役割が重視されている。この中でもレニン-アンギオテンシン系が特に注目されている。この系の最終産物であるアンギオテンシンIIはメサンギウム細胞の収縮、増殖に関与し、ひいては糸球体硬化に関与するとされる。実際、このアンギオテンシンIIの産生を抑制する目的でアンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)が糸球体腎炎の治療に用いられている。しかし、ヒトのまさに腎局所でのこの系の遺伝子の発現についてはほとんど検討されていない。近年、PCR法の登場により微小な組織標本による遺伝子の発現量の評価が可能となった。そこで、申請者は糸球体腎炎等の疑いのため、腎臓生検検査を必要とした患者を対象して、腎生検の微小組織からmRNAを抽出し、レニン-アンギオテンシン系の各成分の遺伝子発現をRT-PCR法で検討した。この発現量と各種の臨床所見や、組織所見との関連性を評価した。血漿レニン濃度と腎局所のレニン遺伝子の発現量に相関がみられた。腎糸球体の増殖の程度とAT1の発現量に相関性が認められた。腎糸球体疾患の腎局所でレニン-アンギオテンシン系の発現動態を検討したものは、わずかにレニンの発現を検討したものがみられる他はなく、新しい知見と考えられる。この知見は腎疾患患者に対するACEIやアンギオテンシンII受容体拮抗薬の投与にひとつの理論的根拠を与えるものでありかつ薬剤の使いわけ等におおいに参考となると考えられる。
|