研究概要 |
【背景】われわれは肝細胞癌の切除後再発には肝炎活動性が関わっていることを示してきた(Cancer 1996)。また、活動性肝炎のさいには類洞内皮細胞にICAM-1,ELAM-1などの発現がおこることが知られている。そこで肝炎活動性の高い症例における再発の機序がこれらの接着因子の活性化にあるのではなかと考えた。そこでELAM-1のリガンドであるsialyl Lewis X(sLex)の肝細胞癌における発現が再発因子であるか否かを検討した。 【方法】42例の肝細胞癌切除例を対象にsLEXに対するmonoclonial抗体(CSLEX)を用いて、免疫組織化学染色を行った。 【結果】 (1)非癌部肝:非癌部肝には24例(64%)の高頻度に肝細胞膜に発現が見られた。癌部では47結節中14結節(30%)に発現を認めた。さらに非癌部におけるsLexの高発現に注目し、解析を行ったところ、sLex陽性の非癌部組織から発生した肝癌には多中心性発生のもの(肝癌取り扱い規約の定義)が有意に多いことがわかった。 (2)肝細胞癌:肝細胞癌における染色性の特徴としては、非癌部よりも染色性が低下していることがあげられた。さらに高分化型肝癌では膜が染色されているのに、中低分化型では細胞質が染まっていた。さらに肝細胞癌の染色性によりsLex陽性、陰性群の2群にわけ比較検討したところ、両群の無再発生存率に有意差を認めなかった。 【結論】 (1)肝細胞癌におけるsLexの接着因子としての意義は少ないものと考えられた。 (2)非癌部肝組織におけるsLexの発現は肝細胞癌の発癌に深く関与している可能性がある。すなわち、肝組織におけるsLexの発現は慢性肝疾患における肝細胞の傷害と再生を反映していることが知られており、このことがsLex陽性肝における肝発癌に結びついている可能性がある。
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