胸部手術(標準開胸下手術、鏡視下手術)をうけ、胸腔ドレーンが留置されている患者の胸壁に振動刺激を投与し、肋間筋に誘発した緊張性振動反射の呼吸と胸腔内圧に及ぼす効果について検討した。 被検者の前胸壁(第2-3肋間傍胸骨部)に振動器をあて、上位肋間筋の機能相すなわち吸息相で刺激(振幅1mm、周波数100Hz)を投与した。このときの一回換気量、胸腔内圧の変化を記録し、解析した。 刺激の投与により、有意に一回換気量は増加し胸腔内圧の陰圧が強まった。また、この変化は意識的に浅い呼吸をしているときよりも深い呼吸をしているときに顕著であった。さらにこのような変化は刺激の投与の中止で消失し、すみやかにもとの呼吸に戻った。また刺激の投与によるこれらの変化には再現性が認められた。 以上の結果から、呼吸筋の機能相に誘発した緊張性振動反射は呼吸活動に対して促進的に作用することが明らかとなった。上位肋間筋に誘発した緊張性振動反射が一回換気量を増加させることはすでに健常成人のデータからすでに明らかになっているが、胸部手術後のケースや緊張性振動反射が胸腔内圧に及ぼす効果についての報告は未だ少ない。特に呼吸筋の機能相で誘発した緊張性振動反射が胸腔内圧に効果を及ぼす(胸腔内圧の陰圧を強める)ことが今回の研究で明らかになったことは今後研究を進めていく上で極めて意義深い。 胸部手術後、患側肺を早期に充分に再膨張させるとことは術後管理において重要なポイントの一つである。これまでは呼吸訓練器を用いて患者に深い呼吸をさせ患側肺の再膨張を促してきたが、今回の研究結果から胸部手術後呼吸筋に緊張性振動反射を誘発することは胸腔内圧の陰圧を強め、患側肺の再膨張を促進すると考えられる。胸壁への振動刺激の投与は簡便に行うことができ、また侵襲も少ないことから胸部手術後の理学療法の一助となることが示唆された。
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