研究概要 |
[目的]脳腫瘍(神経膠腫)の腫瘍化に細胞分化異常が関与すると予想される。本研究では、神経膠腫細胞内で分化因子を強制発現させることにより、形質が分化方向に転換するかどうかを検討した。[方法]RT-PCR法によりショウジョバエrepo遺伝子cDNAの制限酵素部位を含む1kbの断片を単離した。これをプローブにしてショウジョバエ・エンブリオcDNAライブラリーをスクリーニングし、2kbのrepo遺伝子cDNA全長を単離した。次に強制発現ベクター(pcDNA3-CMV)にrepo遺伝子cDNAを順・逆方向にリクローニングし、各々の発現ベクターを作製した。ヒト神経膠腫細胞株(T98G細胞)にこれらの発現ベクターを導入し、G418をマーカーにして発現株を単離した(細胞株におけるrepo遺伝子の発現はmRNAレベルで確認した)。発現株を順方向発現株、逆方向発現株、ベクター株に分け、1)形態変化、2)GFAP(Glial Fibrillary Acidic Protein)、GS(Glutamine Synthetase)のmRNAと蛋白発現量、3)Differential Display法による発現パターン、の解析を行った。[結果]1)repo遺伝子発現株だけが、正常の神経膠細胞に類似した両極紡垂形の形態を示した。非発現株は、親細胞と同じ形態を示した。2)GFAPとGSの発現は、どの株にも認められなかった。GFAPとGSのプロモーター領域にはrepo蛋白結合エレメントは存在せず、GFAPとGS遺伝子ともrepo蛋白の非標的遺伝子と考えられた。3)repo発現株と非発現株の発現パターンはバンド数で約10%異なっており、発現株特異的なバンドを72種類単離した。[結論]ヒト神経膠腫細胞内において、ショウジョバエのグリア細胞特異的分化因子(repo)遺伝子を強制発現させることにより、神経膠腫細胞が形質転換し分化誘導させることができた。特異的分化遺伝子は、将来の遺伝子治療の標的遺伝子の一つになりえる可能性を示唆した。 この研究成果は、The 9th International Conference of the International Society of Differentiation(ISD),Pisa,Italy(1996年9月28日〜10月2日)にて発表した。
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