(方法)1 虚血性脳血管障害(急性期から慢性期に至るまで)の臨床例において^<11>C-DAGおよび^<15>O2標識ガスを用いたPET検査:イノシトールリン脂質代謝系の活性物質である^<11>C-DAG (1-[1-^<11>C] butyryl-2-palmitoyl-rac-glycerol)をヒトに投与し、その代謝回転速度に応じてイノシトールリン脂質として膜に貯留する放射能量を単位時間当りにPETにより体外測定した。2 賦活試験後のPET検査:primary cortexの賦活試験のみならず、言語、記憶などの高次脳機能の賦活試験によりイノシトールリン脂質代謝の変化を測定した。3 脳血流改善剤、脳代謝賦活剤投与前後でのイノシトールリン脂質代謝の変化:慢性脳虚血症例にコリン系賦活剤を経口投与した後に、DAG-PET studyを行った。4 神経心理学会検査:長谷川式簡易知能評価、Mini-Mental Stateなどを行った。5 上記の結果の総合的評価 (結果と考察)1 DAG画像はCBF、CMRO2、OEFいずれとも異なったパターンを示し、虚血巣でむしろ上昇しており、また虚血部位周囲あるいは半対側脳に高集積点(hot spot)が認められる例があった。このhot spotが脳の代償機能を表している可能性が示唆された。2 記憶学習負荷により、イノシトールリン脂質代謝の亢進が連合野において認められた。3 コリン系賦活剤を経口投与した後に、DAG-PET studyを行った場合、投与前に比べDEGの取り込みが高くなっていた。4 神経心理学会検査では痴呆の状態には至っていなかった。それにもかかわらず、さまざまのDAGの変化が認められており、前痴呆状態での脳機能の評価になる可能性を有している。5 通常の脳血流量などの変化に先駆けてイノシトールリン脂質代謝の変化が認められ、かつ虚血脳においてもイノシトールリン脂質代謝の代償機転が働いていることがわかった。将来、高次脳機能やリハビリテーションの評価判定に有用である可能性が高い。
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