いわゆるむち打ち損傷は、医学的にも社会的にも数多くの問題があり、現在その病態はいぜんとして不明な点が多い。平林らの人体による低速度追突実験で示しているように、むち打ち損傷は頚部の運動が生理学的運動範囲を越えなくても生じることから単純な頚椎の捻挫では無いことが推察される。動物を使った基礎実験では、頭頚部の前後への自然刺激は、頚髄に強い刺激を与えることがすでに証明されている。一方、臨床にて脳幹症状を伴ったむち打ち損傷は、しばしば後頭部痛や眼痛などのBarre-Lieou徴候を認める。しかし、それらの客観的検査方法は、現在のところ存在しない。そこで我々は、閃光刺激による脳幹、頚髄誘発電位の導出とその起源を明らかにするための実験を行った。 実験は、成猫10匹を使用して行い、日本生理学会の動物愛護基準に準じて行われた。麻酔はペントバルビタールまたは、ハロセン-笑気麻酔を用いた。刺激は眼前5cmでキセノン管を使用して行われ、記録は上位頚髄より細胞外記録と細胞内記録が行われた。結果は、上位頚髄(C1-C4)背側より陰性-陽性-陰性波を記録できた。また、前角細胞よりの細胞内記録によりそれらの成分の一部に前角細胞よりIPSPが含まれることが証明され、運動路の評価としても有用である可能性が示唆された。また網膜の影響を避けるために視神経の直接電気刺激を行い、頚髄内をトラッキングしたところ、その伝導路は視蓋背髄路を経由している可能性が強いことが判明した。 閃光刺激は、自然刺激であり疼痛を伴わずに非侵襲的検査方法であると言える。現在臨床応用について検討中であるが、今後の発展が期待される。
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