脳虚血時種々の伝達物質が放出される。特にグルタミン酸などの興奮性アミノ酸の放出は、興奮性神経細胞死の原因として注目されている。in vivoの研究では対照群も麻酔下の状態にあり、実際麻酔薬が非麻酔下の状態と比較して伝達物質の放出を抑制するか不明である。したがってラットの海馬スライスに虚血様侵襲を加えて以下の実験を行った。Wister系ラットから麻酔下に大脳半球を摘出しマイクロスライサ-にて350μmの厚さの海馬スライスを作製した。グルコースを除去した人工脳脊髄液で満たされた小dishにスライスを移し、このdishを100%窒素で飽和させたincubatorに移した。すなわちスライスをグルコース、酵素を除去した状態に暴露しin vitroでの虚血様侵襲とした。虚血様侵襲と同時に吸入麻酔薬(イソフルレン、ハロセン)、静脈麻酔薬(ペントバルビタール、プロポフォール)のいずれかを負荷した。虚血様侵襲によりdishの人工脳脊髄液内に放出された興奮正アミノ酸(グルタミン酸、アスパラギン酸)を高速液体クロマトグラフィーにより測定した。コントロールとして塩化カリウム負荷により脱分極させ興奮性アミノ酸を放出させた切片を使用した。一時間の虚血様侵襲により興奮性アミノ酸はコントロールと比較して6倍も上昇した。この上昇はイソフルレン、ハロセンで約1/3に、ペントバルビタールで約半分に抑制されたが、プロポフォールでの抑制効果はみられなかった。以上より、ある種の麻酔薬では虚血様侵襲による興奮性アミノ酸上昇を抑制することが判明した。なお本研究施行中にアメリカのグループより同様の報告がなされたため、新たに脳切片培養を用い興奮性アミノ酸上昇抑制効果と予後との関係を検討すべく研究計画を企図中である。
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