Kalmanらの核医学的手法を用いた解析により大動脈遮断解除後の左室拡張機能障害が指摘されたが、その発症時期におよび持続時間についての詳細は知られていない。近年経食道心エコー(TEE)の普及により遮断解除時の心機能評価を詳細かつリアルタイムに行うことが可能になった。我々がTEEを用いて左室拡張機能障害のリアルタイムモニターという新たな手法の開発を目指した。 腎動脈下腹部大動脈瘤予定患者15例を対象とした。麻酔方法はGO+NLAと1%リドカインによる硬膜外麻酔を併用した。TEE(ヒューレットパッカード社製)にてMモードによる左室流入血流をモニターし、これをビデオテープに記録した。左室流入血流の測定部位は流入路の中央線上で僧帽弁レベルと弁尖先端レベルの中央とした。測定は大動脈遮断解除前、直後、5分後、10分後、15分後、20分後、以後10分おきに60分後まで行った。また右内頚静脈よりサーモダイリューションカテーテル(日本光電)を挿入し、同時に肺動脈血圧、肺動脈楔入圧、心拍出量の測定を行った。記録したビデオテープをコンピューターに取り込み、E/Aratioを計測し、その経時的変化を解析した。E/Aratioは遮断解除後15分で有意に減少し、これは60分後に回復した。この間肺動脈楔入圧、心拍数の有意な変化を認めず、E/Aratioの減少は左室拡張機能の一時的な低下を反映すると考えられた。この研究により大動脈遮断解除後の左室拡張機能の経時的変化についての情報が得られたのみならず、大動脈遮断解除時の低血圧のメカニズム解明への重要な手かがりが得られた。また左室拡張機能のリアルタイムモニターへの可能性を示したと考えられる。
|