ハロタンによる劇症型肝炎の発生機序は最終代謝産物であるトリフルオロ酢酸(TFA)がハプテンとして蛋白と結合し抗原性を呈することが関与していると考えられている。一方、イソフルランでは同様にTFAが代謝産物として生じるにも関わらず、明らかな劇症型肝炎の報告はない。本研究の目的は、この差は麻酔投与後のTFA結合蛋白の抗原量に差があるためではないかという仮説を実証することにあった。 本研究は以下の2段階で、ハロタンあるいはイソフルラン投与後のラット肝ミクロソーム蛋白分画中のTFA結合蛋白の産生の有無を評価した。1.肝ミクロソーム分画の調整:6週齢SDラットの腹腔内に、それぞれハロタン10mmole/kg(H群)、イソフルラン総量30mmole/kg(低I群)、イソフルラン総量40mmole/kg(高I群)を投与した後、肝を摘出しミクロソーム分画を調整した。2.イムノブロット法によるTFA結合蛋白の定性試験:すでに作成していたウサギ免疫抗TFA抗体を用い、イムノブロット法により上記方法で調整したラット肝ミクロソーム分画中に抗TFA抗体と反応する蛋白が存在するかどうかを調べた。その際にEnhanced Chemiluminescence法を用い、検出系の感度を上げる工夫をした。結果的に、H群では複数本の反応するバンドが得られ、これらはTFA-lysineによって阻止されたが、低I群、高I群ではともにTFA-lysineによって阻止される反応がみられなかった。したがって、イソフルラン麻酔後には、今回用いた系で検出されるほどのTFA結合蛋白は産生されておらず、ハロタンと比較して、TFA結合蛋白の抗原量に差があることが明らかとなった。 今後は検出系の感度をさらに上げることで、イソフルラン麻酔後のTFA結合蛋白産生の定量的評価をする予定である。
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