研究概要 |
全身麻酔および手術侵襲は生体の免疫系に種々の影響を及ぼす。本研究では、全身麻酔及び手術侵襲による細胞性免疫の変化を明らかにすることを目的として、周術期におけるT細胞活性化能の変化の解析を行った。全身麻酔下での予定手術症例を対象とし、揮発性麻酔薬による緩徐導入を行い、麻酔導入前および導入後20分において末梢血採血を行い測定試料とした。T細胞活性化刺激としてConcanavalin A,CD2/CD2R,あるいはフォボールエステルとカルシウムイオノフォアを全身に加え、37度4時間の刺激を行った後、早期リンパ球活性化抗原であるCD69の発現をフローサイトメトリー法により測定し、T細胞活性化の指標とした。また、同時にCD4あるいはCD8との多重染色を行うことにより、CD4およびCD8陽性細胞群各々についてCD69の発現を評価した。Concanavalin A刺激については、刺激4時間後においてはCD69陽性率はCD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞とも最大5%前後であり刺激時間の最適化が必要と考えられた。CD2/CD2 R刺激後のCD69陽性細胞率はCD4陽性細胞において38-55%,CD8陽性細胞において25-46%であり、全身麻酔の導入前後において明らかな差は認められなかった。また、フォボールエステルとカルシウムイオノフォアによる刺激についても、全身麻酔導入前後において明らかな差を認めなかった。本研究により全身麻酔導入直後においてはT細胞活性化能は変化しないことが示唆された。今後、さらに長時間の全身麻酔ならびに手術侵襲を伴う場合の変化についての検討が必要であるが、CD69発現を指標とした評価はT細胞サブセットについての情報が得られ有用であると考えられた。
|