免疫抑制剤シクロスポリン(CyA)の副作用に腎障害がある。研究代表者は、ラットにCyAを投与すると腎皮質の組織血流が低下すること、傍糸球体細胞内のレニン顆粒が増加すること、血中のレニン濃度は上昇しないこと、血清クレアチニン値とカリウム値が上昇すること、クレアチニンクリアランスが低下することを、これまでの一連の実験で確認した。そして、CyA腎障害の発症機序に関して「腎糸球体の輸入細動脈の攣縮による糸球体濾過率の低下が一因である」という仮説を立て、血管拡張作用を有する薬剤を併用すれば腎障害が予防できると考えるに至った。研究代表者は、すでに数種類の薬剤との併用実験を行っており、いくつかの薬剤に腎障害予防効果があることを確認しているが、今回新たに交感神経α1受容体遮断薬ウラピジルとの併用実験を行い、同剤にCyA腎障害軽減作用があることを確認した(1997年の日本腎臓学会総会で発表予定)。またアンギオテンシン変換酵素阻害剤デラプリルとアラセプリルとの併用実験を行い、これらの薬剤にはCyA腎障害軽減作用がないことを確認した(1997年の米国泌尿器科学会で発表予定)。 輸入細動脈攣縮のメディエーターについては未だ定説がないが、強力な血管収縮物質であるエンドセリン(ET)に傍糸球体細胞からのレニン分泌を抑制する作用があるという報告がなされており、ETがメディエーターであると考えると研究代表者がこれまでに得た知見を矛盾なく説明することが可能であるため、今回特にCyA投与時のETの変動と選択的ET-A受容体拮抗薬の効果に注目した実験も行った。その結果、CyA投与時に末梢血中のET-1が上昇すること、選択的ET-A受容体拮抗薬S-0139が腎皮質血流の低下を防ぐことが確認された(1996年欧州透析移植学会議で発表済み)。
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