1.ヒト卵巣癌細胞株(MCAS株、Kuramochi株)を用い、0.1μgシスプラチン添加群、0.5μgシスプラチン添加群、無処理群の3つの培養系を作り、7日間培養後のGST-πとc-Junの発現をウェスタンブロッティングで調べ、シスプラチン暴露によってGST-πとc-Junの発現が誘導されることを確認した。さらに、上記3つの培養系にdexamethasone(DEX)とclofibric acid(CA)を投与した時のGST-πとc-Junの誘導の変化をウェスタンブロッティング調べたところ、DEXとCA処理によって、GST-πならびにc-Junの発現が抑制されることをみいだした。この現象は、DEXあるいはCAによってシスプラチン耐性を抑制できる可能性があることを示唆するものと思われる。 2.シスプラチン耐性卵巣癌を選別するため、卵巣癌組織でのGST-πならびにその関連癌遺伝子産物c-Jun、c-Fos、c-H-Ras、c-Mycの発現と臨床予後との関連を調べてみた。上皮性卵巣癌組織40例を用い各抗体による免疫組織化学染色を行った。その結果GST-πならびに各癌遺伝子産物発現と臨床進行期、病理組織型との間に相関は認められなかったものの、c-Junの発現と癌の後腹膜リンパ節転移との間に有意な相関を認め、GST-π陽性患者、c-Jun陽性患者では、それら陰性患者に比べ有意に予後不良であった。さらに、GST-π陰性かつc-Jun陰性患者の累積5年生存率は100%であった。c-Fos、c-H-Ras、c-Mycの発現は、癌転移ならびに患者予後に関連性はなかった。これらの結果から、卵巣癌組織で、GST-πとc-Jun発現を同時に検索することはシスプラチン耐性卵巣癌を選別し、患者予後を予測する上で有用と思われた。
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