本研究は女性ホルモンによる内皮機能の制御、およびその機能変化に伴う動脈硬化の発症機序の解明を目的としている。血中estradiol(E2)レベルに伴ってヒト子宮動脈(UA)の内皮細胞からはPGI_2およびEDRF/NOが産生・遊離されることを我々は既に報告したが、今回は、両者の相互作用と肥厚性変化との関係を検討するため、相互作用時のUAの弛緩能、さらにPGI_2およびNOそれぞれのセカンドメッセッジャーである組織中cAMPおよびcGMP(CN)含量の変化を調査した。PGI_2 analogueであるilporostおよびNO donorであるsodium nitrioprussideを同時に投与したところ、内膜肥厚を認めない標本では弛緩反応および組織中CN含量は相乗的に増加したが、肥厚標本ではこの相乗的変化は認められなかった。すなわち、PGI_2およびNOによる弛緩反応とCN含量の相乗作用はUAにおける内膜肥厚と密接に関係しており、PGI_2-NOの相乗効果の消失が肥厚性病変発症の引き金となると考えられ、これを報告した。一方、UAをE_2を含む培養液中で中で24時間incu bationを行い、acetylcholine誘発のNO産生量をNO合成酸素阻害剤を利用して、組織中cGMP含量の変化の変化として検討したところ、E_2 incubationを行った標本では行わなかった標本よりも、NO刺激によるcGMP含量増加しちえる傾向が見られた。即ち、E_2 incubationによりNOの産生・遊離が増加しており、このことから女性ホルモンによる動脈硬化発症抑制の機序であると考えられた。
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