本研究は、胎仔肺細胞株に羊水を添加し、その増殖能、運動能、形態形成能の変化を培養実験系で検討し、この作用が肝細胞増殖因子(HGF)によるものかを確認する研究である。増殖能はBRdU cell proliferation assayによって、運動能は、Boyden chamberによるmigration assayによって、また形態形成能はコラーゲンゲル内3次元培養によって検討した。肺細胞株はリコンビナントHGFの添加によってその増殖能、運動能は亢進するものの、形態形成能は認められなかった。これに対して、羊水を添加によっても、増殖能の亢進は認められなかったが、妊娠32週以前の羊水を添加すると、細胞運動能は亢進し、その羊水中のHGF濃度は、リコンビナントHGFとほぼ同程度の運動促進作用であった。またこの作用は抗HGF中和抗体によって減弱消失した。しかし32週以降の羊水では、この運動能亢進は認められなかった。また羊水の添加によっても形態形成能は認められなかった。羊水中には様々な化学物質が含まれて上皮細胞増殖促進作用、あるいは増殖抑制作用も有している。そのため増殖能をこのHGFのみで検討することは困難であり、HGFが含まれている羊水の細胞増殖促進作用は認められなかったと考えた。一方細胞運動作用を持つ化学物質は限られており、その中でHGFはきわめて重要なサイトカインと考えた。羊水過小症の胎児は不可欠的な肺低形成を来すことから、妊娠中期までの羊水は肺形成に不可欠である。その作用は、子宮内圧の維持といった物理的作用のみならず、羊水が肺胞まで到達し、卵膜由来のHGF等の化学物質によって胎児肺形成に重要な働きをしていると考えられた。
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