健常及び常位胎盤早期剥離症例(早剥)胎盤のカルパインの存在と動態を以下の実験法によって比較検討した。 (1)胎盤内カルパイン活性の検討 常法に従い、娩出された胎盤を速やかにカルパイン精製液中でホモジナイズした後に遠心処理し、上清を硫安カット及び透析後、DEAEセファロースカラムにてカルパインを含むフラクションを得た。 精製した検体について、カゼインを基質とした分解活性によりカルパイン活性を簡易的に測定したところ、早剥例に残存カルパインによるカゼイン分解量の低下が認められた。 当教室で作製した各種抗カルパイン抗体を用い、以下の実験によりカルパインの検索を試み、μ-及びm-カルパインの関与、前駆体及び活性型カルパインの関与やカルシウム感受性を検討した。 尚、特異的反応である事を抗原ペプチドによる抗体吸収実験で確認した。 (2)胎盤内カルパインのSDS-PAGE・ウエスタンブロッテッング法による測定 健常例に比べ早剥例にμ-カルパイン80Kの前駆型に対する抗体の染色性の低下が認められた。 (3)胎盤の免疫組織染色によるカルパイン動態の解析 健常例に比べ早剥例にμ-カルパイン80Kの前駆型に対する抗体の絨毛細胞の核への染色性の低下が認められた。 また、同連続切片を用いた、TUNEL法では明らかなアポトーシスの存在は観察されなかった。 以上より、ヒト胎盤に存在するμ-カルパインが常位胎盤早期剥離の病態において活性化されている可能性が示唆された。 現在カルパインの活性化の機序として、低酸素状態の関与を想定し培養絨毛細胞の低酸素モデルを用いて検討中である。
|