研究概要 |
卵巣顆粒膜細胞がアンドロゲン濃度の違いにより、分化と退行の両極に変化し得ることを我々は明らかにしてきた。そこでこの機序を解明する目的にて、アンドロゲンの代謝産物であるエストロゲンについてその受容体の関与の可能性を検討した。エクソン欠失エストロゲン受容体(ERΔ)のうち転写調節活性に対してdominant positiveに作用すると報告されているエクソン5欠失受容体(ERΔ5)とdominant negativeに作用すると報告されているエクソン7欠失受容体(ERΔ7)の発現についてアンドロゲン濃度の違いが発現量にどのような影響を与えるかを定量的RT-PCR法によりmRNAレベルにて測定し検討した。ヒトIVF-ET実施症例より回収された顆粒膜細胞に10^<-9>〜10^<-5>Mのテストステロンを添加培養し72時間まで経時的にtotal RNAを抽出し目的遺伝子の発現量を検討した。その結果、まずテストステロン添加前の顆粒膜細胞では、ERΔ5, ERΔ7のER Wtに対する発現比率は同一症例においても卵胞ごとににかなり変動を認めた。未熟な卵胞ほどその発現比率が高い傾向にあり、卵胞によってはERΔの発現量がともにER Wtに対して逆転している症例も認められた。またテストステロンの添加により時間依存性、濃度依存性にER Wtの発現量が増加したのに対し、ERΔ5, ERΔ7の発現量は有為な変動を示さなかった。その結果両遺伝子の発現比率は時間、濃度依存性に低下傾向を示した。以上よりER WtとERΔの発現は異なった機序により調節されている可能性が示唆された。またER Wtの発現量の低い卵胞においてはERΔの発現量がその成熟度に応じて異なっていたことによりERΔはER Wtとはその役割がことなる可能性が示唆された。しかし、今回の検討ではアンドロゲン濃度のちがいによるER遺伝子の選択的スプライシングに対する影響には差がなかった。
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