我々は糖転移酵素の1つであるガラクトース転移酵素が「卵巣癌患者腹水中で多量に認められる」ことに着目し、しかもこの酵素が卵巣癌患者腹水中では特異的な構造をとる(癌関連ガラクトース転移酵素:GAT)ことを明らかにしてきた。また正常型のガラクトース転移酵素(以下GT)の血中濃度の数々の疾患で上昇するとされているのに対して、GATの血中濃度は卵巣癌患者で特異的に上昇することも確認し得た。よって卵巣癌患者における血中GAT濃度上昇機構を、GTの生体内動態と対比させることによって解明することを本研究の目的とした。 前年度までの卵巣癌由来の培養細胞を用いた検索で、GATと正常型のガラクトース転移酵素(GT)とは同一の遺伝子物産に由来し、しかも癌細胞はmRNAの発現強度に従ってGATとGTとを同時に産生していることが判明しているのに加え、今年度の検討から、(1)卵巣癌患者の治療経過におけるGAT、GTの血中濃度の経時的変化が異なること。しかもGATの方が病態を的確に反映していたこと。(2)患者血清を用いた場合のGTは、正常組織由来のものも混じて検出されると考えられるので、ヒト卵巣癌細胞を用いた担癌マウスにてマウス血中のヒトGT、GATの動向を検討したところ、両者ともに腫瘍重量に比例し、腫瘍摘出に伴い血中から消失すること、消失速度はGATの方がより速やかであること、などが判明した。このように、癌細胞での産生・放出の段階においてはGAT、GTともにmRNAの発現強度に従うものの、放出後の血清中にはGATの消失を促進する因子が存在する可能性が示唆された。一方、GTの消失速度はGATに比してかなり遅いことから、卵巣癌患者血清中には既に蓄積されたGTが存在し続ける可能性があり、GTは必ずしも腫瘍の動向を反映しない理由の1つであると考えられた。
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