ヒトの中枢での言語認知に関わる脳活動を評価するため、視覚言語刺激とそれに続く発語に書関わる事象関連脳磁場を記録した。視覚刺激として長方形と漢字3種を用い、それぞれの刺激に対して、黙読、無意味言語発語、有意味言語発語といった課題を与えた。 漢字刺激に対する反応は、後頭葉において約100msの潜時ですでに長方形に比して大きかった。これは、視覚野においてすでに漢字に対する情報処理の最初の段階が起こっていることを示唆する。続いて150〜500msの潜時で、側頭・頭頂・後頭葉境界部のおそらく角回と思われる部位でも、同様に長方形に対する反応が長方形に対してより大きくなっていた。この部分は、いわゆるウェルニッケ野の一部と考えられ、漢字の言語処理に関わる脳活動が起こっている可能性が示された。 また、一部の被験者では、250ms以後に前頭葉でも同じ様な現象が認められ、前頭葉(おそらくブローカ野)の活動が、漢字刺激の場合のみ賦活されることが示された。これは、発語時のみならず、黙読に際してもブローカ野が活動する事を示すものと考えられた。 発語に関わる脳磁界は、約500msの潜時で同時に3つの等価電流双極子が推定される者があり、それらはそれぞれ補足運動野と両側の運動野に求められた。このことから、今回の発語に際しては運動野と補足運動野の活動がほぼ並行して起こっていることが示された。 さらに、個人差が大きいものの、150ms以前の早い潜時で、後頭葉のみならず前頭葉や側頭葉においても反応がみられる者があり、このことから、言語の並列処理の可能性が示唆された。
|