ラット嗅上皮を透過・走査型顕微鏡で観察すると、嗅細胞、支持細胞、基底細胞の3種類の細胞が明確に同定された。嗅細胞は鼻腔面に向かって嗅小胞を突出させその先端に7-8本程度の嗅線毛が見られた。嗅細胞体は上皮の中間層付近にあり鼻腔面との間は微細管を多く束ねる細長い細胞質をもっていた。これは神経細胞の樹状突起に相当すると考えられた。嗅細胞は基底側に向かって軸索を突出させ無髄のまま上皮下へとのびていた。支持細胞は嗅細胞を取り囲むように存在し、縦に細長い形態をなしていた。鼻腔面には微繊毛が多く見られ特に水解小体が多く存在していた。よく発達したゴルジ装置も認められた。基底細胞は上皮基底部に存在し、細胞質には非常に多くの中間径フィラメントが見られた。実験的に嗅糸を切断したラット嗅上皮では切断2週間で上皮の高さが極端に低くなっていた。これは嗅細胞が変性脱落したことによる上皮高の減少と考える。嗅細胞に特異的な蛋白であるOlfactory Marker Proteinの発現をin situ hybridization法で検討すると、正常コントロールでは非常に多くのシグナルが見られたが、嗅糸切断動物では発現の極端な減少が見られた。嗅糸切断後8週間すると嗅上皮は形態学的にほぼ正常構造を示すようになっていた。今後、このような嗅細胞の再生を促す因子について検討するため、組織培養実験も行う予定である。
|