今回の実験モデルでは、ドナーとしてC57BL/6(H-2b)マウス、レシピエントとしてBALB/c(H-2d)マウスをそれぞれ使用した。この組み合わせはドナーとレシピエントの間で主要組織適合抗原(MHC)のみならずそれ以外のマイナ-抗原も異なり、抗原性の相違が強い。まず予備的実験として、豚の活性型TGF-2(R&Dsystem社)を経静脈的に3ngまたは30ng投与し、遅延型過敏反応(DTH)を局所にて計測したところ、dose-dependentに遅延型過敏反応は抑制され、TGF-βの経静脈投与によっても細胞性免疫抑制効果があったものと判断された。全層角膜移植の実験群では、ドナー径、レシピエント径は2.0mmのsame sizeを使用し、手術当日から14日間連続にて、3ngのTGF-β2経静脈投与と、一方コントロール群としてはTGF-βを含まないPBS単独経静脈投与を施行した。TGF-β投与群、コントロール群の両者とも少なくとも8週間、角膜の透明性、浮腫、血管新生などを経過観察し、拒絶のパターンや拒絶発生率を観察した。結果としては、術後8週目における拒絶発症率は、TGF-β投与群が44%、コントロール群が90%で、移植片混濁率は、TGF-β投与群が34%、コントロール群が80%で2群間で統計学的に有意差を認めた。今回の実験結果から、TGF-β投与によって全層角膜移植後の拒絶抑制効果が期待され、将来、臨床的な角膜移植後にもTGF-β使用できる可能性が示唆された。
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