歯胚は、さまざまな分化段階の上皮細胞と間葉細胞を有しており、上皮と間葉の相互作用による組織分化や形態形成を追求するのには優れたモデルである。また、LIM-ホメオドメイン(LH)形態形成に影響を与える転写調節因子であるが、このLHが前脳基底部と第一鰓弓由来の上下顎に限局して発現することが知られている。しかし、口腔領域での分布の詳細や発生段階での分布特異性などは不明であった。そこで、分離同定されたLH遺伝子L3の、口腔領域における時間的および空間的発現を詳細に検索した。さらに培養歯胚におけるL3遺伝子の発現を調節することにより、L3の機能を解析した。 まず、in situハイブリダイゼーション法による分析では、マウスの胎仔歯胚では、L3遺伝子の発現は初期帽状期歯乳頭に認められ、後期帽状期から初期鐘状期にかけてピークを迎え、その後しだいに消退することが明かとなった。またこうしたL3遺伝子の発現は、歯乳頭先端の咬頭付近に最も強い反応として認められ、ここから歯乳頭基底部にかけて限局して暫次減少し分布していた。さらに、培養歯胚を用いたL3の形態形成におよぼす影響を明らかにする実験では、L3遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチドを添加して検討した。その結果、歯胚は正常な組織分化が見られず、エナメル芽細胞や象牙芽細胞も見られなかった。全体の組織構造も歯胚としての形態をとどめないものになった。 以上より、L3は歯胚の発生において、時間および空間特異的に認められることが明かとなった。さらに、L3の歯胚の形態形成に及ぼす影響が重要であることも明かとなった。
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